南国踊り

八:    熊 いてるか

おサキ: 八ちゃん 八ちゃんからも怒ったって

八:   なんやどないしてん

おサキ: うちの人この頃、南国踊りに夢中になって、

八:   南国踊り? 南国言うたら阿波踊りの事か?

おサキ: いやいやもっとずーっと南国言うてた

八:  ずーっと南国て、海しかあれへんがな

おサキ: それが、あるねんてハワイって名前の楽天地らしいわ

八:   へー それでそのハワイってところの踊りが、なんでこんなとこでやってるねん?

おサキ: それがね、 女性の宣教師って人がハワイからやってきて教会で南国踊りを教えてるらしいねん

八:   へー それで あの野郎が鼻の下伸ばして踊り習いに行ってのか よっしゃ おれがガツンと 

あいつの頭どついたるわ

おサキ: やめてよ! うちの人に手あげたら私がしょうちせえへんわよ

八:   えー おかしなこと言うな あんたがうちの人怒ってくれ言うたやないか

おサキ: 怒ってくれ言うたけど、どつけて頼んでない。 ちょっと口とんがらせてメっていうくらいにして

八:   そんなあほな

おサキ: 違うのよ私にやれって言うのよ おサキお前可愛いから絶対やったらええよって  私が花の髪飾りつけたら可愛いからやれっていうんやけど、第3者の目から見て私そんなに可愛いかしら?

八:   知らんがな  勝手にせえ おれを巻き込むな

噂をしていると熊が帰ってまいります。

熊:  おー八来てたんか  おサキ 見てきたで 踊りの先生はマドンナって名前や  おい八どないしてん ワシがマドンナ言うたらパッと突っ込み入れんかいな

八:   はいはい ま~どんな人? こんでええか?

ハイハイはいらんわ  いや可愛い人やった それで申し込み済ませてきたで

おサキ: うち出来るやろか

熊:  出来るに決まってやないか え おサキは可愛いからな すぐにセンターになるで。ほれ、去年町内でドジョウ掬いの踊りやった時、ほかの連中は短い割りばし咥えて鼻の穴無理から上むけてたやろ、その点おサキは何にもせんでも上向いてるから、優勝したやないか。 おサキは踊りが上手いって評判やった

おサキ: そう? もうアンタったら 

熊:  おサキ

おサキ: あんた

熊:  おサキ

おサキ: あんた

オッホン おれもう帰らしてもらうで、 お先(おサキ)に失礼したします。

 

おあとがよろしいようで

 

 


王様病

 

あるところに、 大金持ちの庄屋さんがおりました。ところがお金で困ってる人を見ると、「お前ら、怠けてるからや もっと働け」 病気で苦しんでる人を見ると 「病気になるんは気が緩んでる証拠や」てなことを言って、助けようなんて思ったことは一度もありません。

この金持ちに村一番の器量よしの娘がおりました。 高慢ちきなところは親譲りでございます。

ところがある日、この娘が病気になります。 日頃から 病気になるんは気が緩んでる証拠やと言ってる手前 村の医者に連れて行くことが出来ません。 密に薬草を取り寄せて煎じて飲ませていましたが、一向に良くなりません。 遂には歩くことも出来なくなります。

さあ、困った  今更、村の医者に助けてくれとは言えませんので、遠く長崎から医者を呼んでまいります。

当時蘭学ってのが最先端の医療でしたので、異人さんつまりオランダ人の医者ですな。この人に来てもらおう 名目上は住み込みの家庭教師という事にいたしました。そうすると世間体も良い!

このお医者さん到着した日 娘さんに、どこが痛いのか 苦しいのかと聞きます。 いわゆる問診てやつです。ところがどこも痛くない ただただ辛いと言って、か細い声で泣くばかりでした。

するとこのお医者様が突然お祈りを始めました。「天のお父様 助けてください」 そばに座っていた両親はビックリします。有名な医者と聞いていたのに、いきなり助けてください とお祈りしたからです。

奥方: ちょいと、おまいさん  大丈夫かねこの人 いきなり死んじまった自分の親に助けてって言いだしたよ

庄屋さん : ああ どういうことだろうね あ あのう 先生様 つかぬことをお聞きしますが 、助けてほしいのはうちの娘ででして、先生さまは助ける側の人だと思うんですが  

オランダ医者 : そうですか

庄屋さん : え~ なんとか助けてほしい一心で大枚はたいて長崎から来てもらったんですが、

オランダ医者 : では一緒に祈りましょう

庄屋さん : いや そうやなくて  最新医学ってやつで手術するなり薬を処方するなり それをやってほしいわけです。祈願するだけならお寺さんにも神社にも頼みますよ お金ならいくらでも出しますんで宜しくお願い致します。

オランダ医者 :  そうですか では、あなたからお金を借りている人を連れてきてください それからお酒とご馳走を用意してください。

庄屋さん : え~ どういうことですか

オランダ医者 : お金ならいくらでも出すんでしょう?

庄屋さん、しぶしぶ、使用人を村中に送り出して、急いで庄屋の家に集まるよう命じました。

しばらくすると、庄屋さんに借金のある小作人がぞろぞろ集まってきました。

えらい事や のこりの借金一度に返せって言われんちゃうか 無理や~ 

庭に集まった人たちを見て

オランダ医者 : では、この人たちの借金を帳消しにして下さい。

庄屋さん :  そんな無茶な~それをやったら娘は元気な元の状態になるんですかい?

オランダ医者 :  はい

庄屋さん苦渋の決断を迫られます。 が ついに番頭に大福帳を持ってこさせて、一人ひとりのなまえを聞いて借金の所に線を引いて帳消するように命じます。 他の使用人は大急ぎでご馳走を座敷に用意します。村人は何がなんだかわかりませんが、借金が消えたので大喜びです。

村人 : ありがとうございますだ 

村人 : ありがとさんです ありがてえ ありがてえ

今まで金持ちの庄屋さんが大嫌いで、口もきかなかった村中の人がニコニコ顔で笑いあってる声が、娘の枕元まで聞こえてきました。何なの?娘は、何事が起ったのか気になります。

沢山の笑い声が聞こえてきます。 一体何事? こんな笑い声今まで一度も聞いたことがありません。気なって気になって仕方ないので、気力を振り絞って立ち上がります。 そして長い廊下をゆっくりゆっくり歩いて、広間のほうに近づくと笑い声がいっそう大きく聞こえます。そっと覗くと何百人と言う人が、祝い酒じゃ 庄屋さんはい人じゃ 庄屋さんありがとうさんです!と、庄屋さんを取り囲んで、大笑いしているのがみえました。

「おとっつあん」 思わず娘は叫んでいました。 それに気付いた母親が廊下に出ると

奥方: あんたーこの子が歩いたよ 

庄屋さんもビックリ仰天 

庄屋さん :   お前ひとりでここまで歩いたのか お~血の気も戻ってる  やったー やったー

庄屋さんは、なんで娘が立ち上がるほど元気になったのか解りませんので、お医者さんに聞きます

庄屋さん :  先生娘の病気はいったい何だったんですか

オランダ医者 : この病気は「王様病」です 王様のように威張って他人を支配する人やその家族がかかる病気です。私がこの家に来た時、家の中はシーンとして笑い声一つ聞こえませんでした 使用人も声を潜めて話してました。今、あなた方の家の中は、大笑いでにぎやかです。それはあなたが、みんなの借金を無条件で帳消しにしたからです。

庄屋さん :  そうですか いずれにしてもありがとうございました。

オランダ医者 : 一つ忠告があります。 この「王様病」は厄介な病気で、すぐ再発します。威張ったり 他人を見下したりすると再発するのです。

庄屋さん :  再発せんようにする薬はないんですか?

オランダ医者 : 薬はありません が  打つ手はあります。

庄屋さん :  それ教えてください。 

オランダ医者 : そうですか? それは 自分より弱いものから教えを乞う事です。

庄屋さん : あの~意味がようわからんのですが

オランダ医者 :  最近この村にもキリストの伝道所が出来たと聞きましたが あなた知ってますか?

庄屋さん :  よう知ってます。 わしとこに挨拶に来よりました。 なんか頼んない 貧乏くさい男でした

一回前通ったら、ちっこい小屋の中で。のんきに歌うてましたけど。

オランダ医者 :  それが「王様病」の再発を防ぐ一番の手立てです。

庄屋さん : どういうことですか そこに行け言わはるんですか?

オランダ医者 : 行くだけではありません。仕えて下さい。

庄屋さん : え~あの貧乏くさい男に仕える? わしに使用人になれってことですか それはなんぼ何でも出来ません。わしゃこの辺りの名士です!!

オランダ医者 :  まどっちでもよろしい 私はちゃんと伝えました 再発しても私には責任はありません あんた次第です。 ではさようなら

オランダの医師はサッサと帰っていきました。 庄屋さんは悩みます。 王様病にはなりたくない、かと言って庄屋のわしに使用人にになれって それはあんまりや

そこで、庄屋さん考えます。 自分の使用人を偵察に送り込むことにしました。

庄屋さん : どやった? 

帰ってきた丁稚は嬉しそうに話します。 

使用人 : 歌 うたってきました。 

庄屋さん :  それから? 

使用人 : お話がありましたけど寝てたのでよう解りません

庄屋さん : しょうないな 丁稚はあてにならな  番頭さん 今度はあんたが行きなはれ

庄屋さん : どうやった

使用人 : 歌うたってきました。 その後、お話がありましたけど寝てたのでよう解りません

庄屋さん : お前もかいな 大番頭さん 今度あんたが行っとくれ どうやった?

使用人 : 歌うたってきました。 その後、お話がありましたけど寝てたのでよう解りません

庄屋さん : はは~ん なんやそういう事か オランダの医者が 使用人みたいに仕えるものにならんと「王様病」が再発するって脅しよったけど、歌うて寝てたらええだけやないか よっしゃ今度はわしが行くわ

次の日曜日庄屋さんが教会に行くと、

使用人 : わー庄屋さんが来た~ この前はありがとうござんした

皆が寄ってたかって礼を言うもんですから、庄屋さんニコニコです。ありがとうって言われると気分がええな、歌っている時も上機嫌でした。 さあこの後は話聞くふりして寝てたらええんやな。と思っていると、牧師さんが立ち上がってこう言います。

牧師 : 皆さんも不思議に思っている事がありますね。 庄屋さんがいきなり皆さんの借金を帳消しにした理由ですね。 これをお聞きしたいと思います。 庄屋さん前にどうぞ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ パチ えらい拍手で、もう座ってるわけにはまいりません。 

庄屋さん : (えー寝てるだけと思って来たのに、エライ事になってきたで!)

え~~ あのう 借金 のことですけど  あの え~~ どういうてええのか あのですね これには深い訳がおまして  なんですな 

しどろもどろで、何とか言い逃れをしようとするのですが、頭の中は真っ白のパニック状態です。

借金帳消しの理由て言われても 娘が病に臥せってたことは隠したい  オランダの医者に傲慢な人間がかかる王様病やったと言われた事も隠したい。 ホント言うたら借金帳消しにするつもりも無かった 汗がタ~ラタラ流れてきます。 

「皆さん すんません ワシが悪かった許しとくれ」 やっとこさそれだけ言えました。

村人は何が起こったか全くわかりません。 帳消しにしてもらった上酒飲んでご馳走食べて、さらにあの庄屋さんが畳に頭こすりつけて謝ってるです。

牧師先生が聖書を開いて言いました

牧師 : もし、私たちが自分の罪を言い表すなら、神は真実で正しい方ですから、その罪を赦し、すべての悪から私たちをきよめてくださいます。 庄屋さん あなたは今日神様に仕える者に生まれ変わったのです。

 

 


藪から棒

まくら

え~助け亭サンキューと申します 

バカにされるのは辛いものですな 「おれアホやねん」って自分で言ってる人でも他人から「お前はアホや」と言われると怒ります。 さて、仲良しの八と熊が赤ちょうちんで一杯飲んでおります。

――――――――――――――――――――――――――――――――

 : おい熊 前から一遍お前に言おうと思ってたんやけど、お前は俺をばかにしてるやろ

熊 : 藪から棒に何言うねん

 : それや そういうとこがバカにしてるねん

熊 : 意味わからんな そういうとこってどういうとこやねん

 : 藪から棒 って言うたやろ なんか格言か方言か知らんけど、難しい事いうたら偉いんか

熊 : いやいや 八よ 藪から棒って普通に言うやろ?

 : ほんなら、その棒はどれくらいの長さがあるねん?

熊 : いや お前 相当酔うてるな 棒の長さ言われても分らんわ

 : ほら見てみ 自分でも分らんのにわかった顔して、偉そうに言う こういうところがアカンて言うてるんや。

熊 : そらすまんかった わしが悪かった 

 : そこや わしをバカにしてるのは、そういうとこや

熊 : またかいな そういうとこってどういうとこやねん。 謝ったやないか

八 : な、すぐそうやって、わしが悪かったって、事を収めようとするやろ はいはいちゅうて、その上から目線が気に食わんって言うてるんや

熊 : 難儀やな  ほな わしにどうせえ言うねん

 : 熊 お前にイワシの3枚下ろしが出来るか?

熊 : え? また藪から あ いきなりやな  いや わしは大工やから魚屋のお前みたいに上手にはでけへんな

 : ほな わしが、柱にほぞ作れるか?

熊 : そら 無理やろな 

 : そういう事や、 な 誰でも 自分の得意不得意ちゅうもんがあるわけや わしがお前にイワシの3枚下ろしも出けへんのか と威張るのも、お前が俺に釘一本真っすぐに打たれへんのかと偉そうにするのも どっちも間違いや お互い相手に敬意を払うのが大切や、と思う今日この頃です。

熊 : ほう 酔うてる割にはええこと言うな なんかあったんか?

 : 聞きたいか? わし横町のご隠居の勧めもあって初めて教会に行ったわけや

熊 : ご隠居の勧めという事はキリスト教会やな

 : そうや  

熊 : ほう お前がなあ  仏さんも神棚もあるのに外国の神さんも拝むんかいな

 : いや、ちょっと冷やかしで行ってみたんやけどな そしたら オルガンちゅう西洋の楽器があって、それを歳の頃なら18位の可愛い子が弾いてるねん。

熊 : へー わしも行ってみよかな

 : あほか お前は嫁さんおるやないか! 遠目にみたらそこそこで、近くでほっかむり取ったらあ~~ちゅう感じの嫁さんが  その点わしは独身やからな

熊 : いやわしは、そのオルガンちゅうの見に行こかなと思っただけで

 : まええけど そんで 牧師先生ってがおって説教するわけや この前聞いたのは「高価で尊い」という話や

熊 : 「高価で尊い」?

 : そうや高価ちゅうのは値打ちのあるちゅうことや 人間はどんな人でも神様から見たら高価で尊いって事や

熊 : そうかな~?盗っ人はどうなるねん?この前、捕まった五右衛門ちゅう大泥棒おったやないかあれ尊いか?

 : それは、人間の目からみたら最低やけど、神様の目から見たら尊いねんて なんでかわかるか

熊 : わるかわけないやないか わしゃ人間やからな

 : わしも最初解らんかった。 けどな その話に続きがあって、後で解ったんや

熊 : 続き?

 : そや 例えていうとお前の嫁さんな おサキさん そら器量良しとは言えんガニ股で歩くし鼻の穴も上向いてる 

熊 : ほっとけや わしは気に入ってるねん 人からどうこう言われたないわ

 : それや

熊 : 何がや 気悪いわ

 : それや お前 嫁はんの悪口聞いて 今怒ったやろ なんで怒ってん?! 言うたろか お前が嫁はん好きや言う事や 愛してる言う事や

熊 : そ それを言われたらワシはどうしたらええの? 照れたらええんか!

 : 「高価で尊い」の続きがある言うたやろ 続きはな 「わたしはあなたを愛しているこれや 私ってのはキリスト教の神さんや な おサキさんは熊 お前に愛されてる そやから あの横町小町って言われてるベッピンさんと比べて私は不幸やなんて思たことないはずや いつ見てもガニ股でどうどうと歩いてるやないか 私は愛されてるって思てるから幸せなんや つまり神様がわしらを愛してると言うてくれてるんや  こんな幸せなことはないやないか。 そやから職業も関係ないねん 歳が若いとか歳とってハゲたとかシワが増えたとか関係ないねん 愛されてると実感出来たら人生幸せやねん。

熊 : ほう~~ たった1回教会行っただけで エライ変わりようやな  ま そう言うてくれたらわしも嬉しい。確かにな おサキはええ嫁や よっしゃ今日はわしのおごりや お姉さ~~ん熱燗もう1本 あもう2本や 八 お前もっと教会行け な 神さんの話し聞いてこい。 おサキはな 働きもんやで 俺の稼ぎが少ないからな グスン 近所から着物の繕い物とかやったりして助けてくれるねん それだけやないで 飯が上手い ごんぼのキンピラ絶品やで   

 : うわ~ えらいのろけが始まったで こら藪から蛇や

おあとがよろしいようで